とある書店で、このパンフレット(写真参照)を発見してしまった。
5cmはあろうかという付けまつげ。後頭部にまで達しようかという銀のアイシャドウ。その男性のメイクは大変に激しいが、それ以上に私の目を奪ったもの。
「・・・頭に茶筅が立ってる・・・」
それが何を知らせるものかも判らぬまま、私はパンフレットを持って帰った。そして改めて目を通していたらば、一本の電話が入る。
「『きむらとしろうじんじん』さんって、知ってます?」
ええ、今しがた。

そんな運命も感じつつ(おおげさ)、行って来た『きむらとしろうじんじん野点2005』in青森・沖館稲荷神社は、京都在住のアーティスト「きむらとしろうじんじん」さんによる野点プロジェクト。自分で絵付けした茶碗でじんじんさんにお茶を点ててもらって飲む、というのが主な流れ。
さて今回の同行者は、還暦目前の私の母。彼女には、日時と場所以外「絵付けと野点」としか知らせていなかったので、待ち合わせ場所で件のパンフレットを見せたときは
「なにこれ〜〜〜〜!」
と叫ばれた。ありゃりゃ、テンション下がっちゃったかしらと心配したが、
「こんなことなら、もう少し派手な格好してくれば良かった・・・」
と要らぬ後悔をしていたので一安心。
昨日までの雨も上がった薄曇の空の下、母と娘は沖館稲荷神社へ向かったのだった。
準備風景も見たいと思って1時間も前に神社に到着。小ぢんまりとしつつも立派な鳥居のある神社の境内に一歩入った途端、母が思いっきり指をさしながら小声で叫ぶ(よく叫ぶ人だ)。
「あの人だ、じんじんさん!背、高!まつげ、長!」
ナイスリアクション有難いが、指をさすのはやめて、ママン。
しかし、確かに彼は目立っていた。すでに衣装も化粧もばっちりで、一目で彼とわかる。よく通る柔らかな関西弁で、てきぱきとスタッフに指示を出しながら準備を進めている。
神社向かって右側にテントが二つ設置され、奥が絵付けスペース、手前が焼き窯&お点前スペースのようだ。
準備が進むにつれ、参加者も少しずつ増えて会場が賑やかになっていく。開始直前には10名ほどが集まった。一人で来たおじいちゃんから、家族連れ、友達同士など、年齢も性別も様々。
「12時なったら始めますんで、もうちょっと待っとってな」
開始を待つ人たちに声をかけるじんじんさん。
「はーい、待ってまーす」
元気にお返事をするうちの母。もう好きにしてください。

そして12時ぴったりに、じんじんさんのご挨拶で始まり始まり。
まずは十数種類のまっさらな茶碗から自分の好きな形のものをひとつ選んで絵付け。大きなお猪口みたいな形、カフェオレボウル風、片口型、いかにもお抹茶茶碗風・・・。私はでっかい湯のみタイプをチョイス。
選んだら、奥の絵付けスペースへ。十数種類の焼き上がり色見本を見ながら、好きな釉薬(ガラスの粉で出来ている)を使って絵付け。さらりとしたものからこってりしたものまで、色によって質感も様々。普通の絵の具と勝手が違って、みんなきゃあきゃあ言いながら描いている。どうでもいいが、子供ってのは色選びも図柄決めも早ぇなぁ。
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で、みんなが絵付けしている最中、じんじんさんがどうしてるかというと、じーっと見てる。孫を見守るおじいちゃんのような目で(失礼)、絵付けに没頭している参加者達を見ている。
さて、私はさっさと絵付けを終わらせ、じんじんさんが立つ焼窯付リヤカーへ。後ろで絵付けの順番待ちの人が立っていたし、会場の様子を観察したかったしで、あまり色を使わず簡単な絵にした。
茶碗をじんじんさんに渡すと、開口一番
「ナマケモノや!」
とのけぞってくれた。そう、私が描いたのはやる気のないナマケモノ。
「おもろいなぁ」
そして、茶碗の内側、底の部分に描いた小さな花の絵を見つけて
「企みましたねぇ」
とニヤリと笑った。
母の絵付けが終わるのを待つ間、私は次々と茶碗を持って来る参加者達とじんじんさんのやり取りを見ていた。
「ああ、この色はどうでるか楽しみやなぁ」
「ほぉ、うまいこと描きましたなぁ」
一人一人に声をかけ、両手で丁寧に茶碗を受け取るじんじんさん。我が子を預けるような思いで茶碗を手渡す参加者達はみんなすごく嬉しそうな顔をする。
細やかな人だなあと見ていたら、なんだかぶつぶつ言い訳しながら茶碗を持ってくるおばさんがいたので誰かと思ったら自分の母親だった。
「焼き上がりまで1時間ちょっとかかるんで、もしお昼がまだやったら、ゆっくりご飯食べてきてや」
じんじんさんが、手を合わせながらすまなそうにみんなに声をかけた。
焼き自体は30〜40分で出来るそうだが、今日は参加者が多く(用意した絵付け用茶碗が30分で完売!)、リヤカーに付けた窯では一度に数個しか焼けないため、いつもより時間がかかるとのこと。私と母はいったん会場を離れ、近くの喫茶店で昼食を取った。

カニグラタンに満足して会場に戻ると、ちょうどじんじんさんが窯出し&いぶしを、スタッフの方々が磨き&洗いをしているところだった。
じんじんさんは、窯の中からそぉっと取り出した焼きたての茶碗に、息を吹きかけてゴミや灰を取り除きながら、焼具合などチェックしているようだ。時々、頷いたり小声で何か感想を言っているようだったが、遠くて聞き取れなかった。
スタッフの方々は、バケツの水の中で、いぶし終えた茶碗を丁寧意に磨く作業をしていた。
「すっごいイイよね、この色」
「こっちのもキレイだよー」
自分が絵付けをしたかのように、他人の茶碗の出来を喜びながら磨くスタッフ。実際に絵付けした本人は恥ずかしいやら嬉しいやらで
「それ、私のです・・・」
なんて言ったりするわけで。
そうしてキレイになった茶碗は、少し乾かしてから代金(1000円。安いよ!)と引き換えにそれぞれの手に渡る。みんないつまでも茶碗を眺めて、いつまでも出来についてしゃべる。嬉しいから。思い通りにいかなかったところ。思ってもみなかったところ。火の力は偉大だ。
さあ、その世界にひとつの茶碗で、いよいよじんじんさんにお茶を点ててもらおう。
とはいえ、やっぱりこれも順番待ち。みんなの絵付けが終わってからのじんじんさんは大忙しだ。窯に入れて、焼いて、いぶして、お茶点てて、写真撮影に応じて・・・。その合間を縫って、参加者に声をかけてくれもする。忙しいはずなんだけど、物腰はいたって優雅。凄いよ、この人。

などと感心してたら自分の番が。まずはお茶菓子の黒豆の甘納豆をいただく。リヤカーに設置された小さなガスコンロの上で、ホーローのやかんがしゅんしゅん歌っている。狭い台の上にみっちり並べられたお茶道具。舞を舞うかのようにお茶を点てるじんじんさん。
「おまたせいたしました」
音もなく置かれた茶碗。・・・一瞬固まりましたよ、私。ナマケモノの絵には魔力が備わっているのですね。凄いぜ!お抹茶がアマゾン川の水に見えるぜ!でも、飲む。

・・・うまぁい。ちゃんとお抹茶だ(当たり前)。
誰でも美味しく飲めるように、ちょっと薄めにしてあるのかしら?どこにも引っかからずに、すーっと流れていく。
「次の番のお茶席までまだ時間があるから、ゆっくりしてってや」
じんじんさんはそう言ってにっこり笑った。
その後、私達はそれぞれの茶碗を包んでもらい、じんじんさんと記念撮影をして、神社を後に・・・
・・・するハズだったのだが、ちょっとよそ見して振り向いたら母親がテレビの取材陣につかまってた。
「今日は娘につれてきてもらったんですぅ(ハァト)」
「まあ、では、娘さんもぜひご一緒にお話を伺わせてください」
ひー!勘弁してくれー!!本気で逃げる私。
で、帰り道。
「楽しかったねぇ」
母が溜め息をつく。
「あんな格好してるからびっくりしちゃったけど、いい人だったねぇ」
全体を通して感じたことは『一人一人に、一つ一つに』だ。
作業だけをこなすなら、もっと楽にサバけるだろうが、彼は来た人全員に喜んでもらおうとしているんだと思う。だから一人一人に声をかけ、一つ一つを大切に扱う。
来る前は「これはパフォーマンスだろ?」と思っていたのだが、違った。
エンターテイメントだ。
ところで、弘前に帰ってから思わぬ副作用に気付く。
自分の茶碗をしげしげと眺めながら
「ここはこうすれば良かった」
と、一人反省会。やがてふつふつと湧き上がる、リベンジゴコロ。
「・・・もう一回作りたい・・・」
というわけで、9月30日の弘前蓬莱広場での野点も行くことに決めちゃいました。ひゃっほー。
もしも当日、会場で、茶碗の内側にちっこい蛙を描いている猫背のおばさんがいたら、それは私です。ナマケモノは元気ですか?と声をかけてください。
そしてアナタもレッツトライ絵付け。ハマります、マジで。

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Info ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
『きむらとしろうじんじん 野点2005弘前」(青森では終了しました)
・ 日時と場所
2005年 9月30日(金)=土手町蓬莱広場
10月2日(日)=田町・城北公園
・ 時間 昼頃から日暮れまで。
・ 参加費
お茶碗作り 1,000円
お抹茶(お菓子付き) 250円
・ 雨天時も現地での開催を予定していますが、会場が変更になる可能性ももあります。また、天候に関わらず急遽変更する場合もございます。詳しくはお問合せください。
・ 問い合せ NPO harappa事務局 担当=大瀬 0172-31-0195
http://harappa-h.org/
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