vol.1
「津軽弁騒動記」
(前編)その3
ところが,ここ一番という時ほど,人は思わぬ失敗をしでかすものである。あろうことか私は,「そうですね。意外にさっぱりしてておいしいんですが,ちょっと麺が,むっついんですよね」と,答えてしまったのである。「むっつい」とは津軽弁で,食パンなどを飲み物なしで口いっぱいにほおばった時の感触である。私はあせって取り繕おうとするあまり,さらに一人でまくしたてる。「エットですね,全体にバサバサしてるっていうか,何て言ったらいいんでしょうかねェ。ン〜」。「ジューシーじゃない感じかしら?」「んだ,んだ。んだのサ」「・・・・・・・・・・」。
相手のタレントさんは,こみ上げる笑いを必死にこらえているのか,ほとんど涙目になっている。
「んだ」は,恐るべしだ。とっさに相手に同意する時など,津軽弁を標準語に変換するスピードよりも一瞬早く,口をついて出てしまう。本当に,侮れないヤツなのだ。(後編へ続く)