vol.5
「風を聴く」
その1

先日、新聞で「パラグライダー体験会参加者募集」の記事を見つけ、家族で参加させてもらった。
その日は、スコーンと抜けるような快晴。空を見上げると、あたり一面にキラキラとした光の粒子が降ってくるような、気持ちの良い日だ。
指導員の方の指示に従い、コッペパンのようなパラシュートを広げ、体にベルトを装着する。「顔に風を感じたら、すかさず全力疾走して下さい」の声に、思い切りダッシュ。背後で機体が風をはらんだ気配がしたかと思うと、頭上で大きく開いた。すると、一瞬ではあるが、体がふわりと宙に浮いたのである。こうなれば、面白くてたまらない。もう一度挑戦しようと思っていた矢先、なぜか、風はぴたりと止んでしまった。
機体をつけたまま手持ち無沙汰の私達へ、指導員の方が話しかけてきた。「パラグライダーで大事なのは、じっと風を待つこと。時に私達は、山の上で何時間も待機しながら、一瞬の風をとらえるんですよ」。若い人のスポーツというイメージがあるパラグライダーだが、決してそうとも限らないのだと言う。むしろ、年齢を重ねることで培われた総合的な判断力、思慮深さ、待つことに対する精神力などが、最終的には大きく影響すると言うのだ。
ならばと、耳を澄まし、心を澄まして風の声に耳を傾ける。しかし、悲しいかな、せっかちな私は風を聴くどころか、じっと待っているだけでイライラしてしまう。
待つことと聴くこと。考えてみたら、これらは、現代の忙しいリズムのなかで、最も希薄になっていることの一つではないだろうか。
(その2へ続く)


エッセイ目次へ戻る
Topへ戻る