vol.5
「風を聴く」
その2

以前、岩木山麓で「森のイスキア」を主宰されている佐藤初女さんのお話を伺う機会があった。
初女さんは、今年八十歳。三十年程前から自宅を開放して、悩みを抱える人や苦しむ人を温かく受け入れてきた。近隣の野山で採れた山菜や旬の野菜で心のこもった料理を作り、彼らの声に耳を傾ける。生きることに疲れた人達は、初女さんに語ることで自分を取り戻し、元の場所へ帰って行くと言う。
「今の時代、みんな話したい人ばかり。誰も聴く人がいないんですね」と言う初女さんの言葉が、胸にせまった。まるで、現代社会のひずみにポッカリと浮かぶ、空虚で寂しいブラックホールを象徴しているかのようだ。
聴くという行為は、そこに存在する時間や空気、雰囲気などから醸し出される、相手の本質的な声に心を傾けることではないだろうか。同じ「きく」でも、耳で「聞く」単なる音声とは、やはりそこが違うのだと思う。
パラグライダーの会場からは、遠くに津軽平野が見える。
一面に広がる稲穂も、小さな実をつけているリンゴも、自然の声を聴き、待つことでようやく実りの季節を迎えることができる。農業と共に生きてきた私達津軽人は、待つこと、聴くことを体を使って実践してきた民族だ。
私も、もう一度、原点に立ち返って、心の耳をそばだててみようと思う。
パラグライダー体験会は、いろんなことをしみじみと考えさせられた、この夏の素敵な出来事だった。 (終)


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