vol.20
「さくら さくら」
その1
「桜前線と共に北上しながら、日本全国を旅してみたい」というのが、子どもの頃からの夢である。
残念ながら、その夢は未だ果たせずにいるが、桜の開花とピッタリの時期に取材で現地へ出かける機会があると、思わず得をした気分になる。
東京にいた頃、三月に関西、五月に北海道へ取材旅行に出かけたことがあり、その年は三ヶ月間に渡って桜を観ることができた。日本列島は南北に長いんだなあと、つくづく実感させられたものだが、同時に、その土地によって、桜の表情や佇まいが微妙に違うというのも面白い発見だった。
全国津々浦々、「おらほが一番」のお国自慢は多々あれど、弘前公園の桜はやはり日本一だと思う。
子どもの頃は、「桜まつり」という呼び方ではなく、「観桜会」という言い方が一般的だった。
耳をつんざくような轟音と共に、球状のステージを猛スピードで回転するオートバイ、サーカス団の一座、象の曲芸にお化け屋敷。あちこちで繰り広げられる酒宴と、大人たちの嬌声。ふわりと風が吹くと、薄ピンク色の花びらが雪のように舞い落ちてきて、お堀を埋め尽くす。人々は花を愛で、祭りを楽しみ、非日常のなかに酔いしれる。
中学生の時、初めて夜桜を観た。あまりの妖艶さに胸がドキドキした。夜の闇に浮かび上がる花の輪郭は、昼間の桜とは全く別の生き物のようである。「桜の樹の下には、屍体が埋まっている!」という書き出しで始まる、梶井基次郎の短編小説が思い出された。
(その2へ続く)