vol.23
「ブナの実一升、金一升」
その1
「マタギと一緒に白神山地を歩きながら、彼らの暮らしについてルポを書いてみませんか?」という電話をいただいたのは、一昨年の夏のことだ。
「えっ?マタギって今でもいるんですか?」こんな大ボケをかますライターに原稿を頼んでしまった編集部は、さぞ後悔しただろうが、後の祭りである。
私はそれまで、恥ずかしながらマタギについて、ほとんど知識を持ち合わせていなかった。私の貧困なイメージでは、まんが日本昔ばなしに出てくるような、背中にタヌキの毛皮をまとい、肩に鉄砲をかついだ荒くれ者の山オヤジといったところ。
内心ドキドキしながら、待ち合わせ場所の西目屋村「暗門の滝遊歩道」の入り口に向かう。だが、そこに現れたのは、山オヤジどころか、ダンガリーシャツのよく似合う品の良い紳士だった。
工藤光治さん。今では残り少ない目屋マタギの一人だ。
工藤さんの案内で、散策道を抜け原生林へ入ると、うっそうとしたブナの木が視界を遮り、顔や体に迫ってくる。カメラマン氏と私は息も絶え絶え、汗はダラダラ、転ばないように足場を確保するのがやっとだが、工藤さんは涼しい顔。どんな急な斜面でも、まるで山肌に足の裏が吸い付いているかのように、音もたてずに進んで行く。立ち居振る舞いに少しの無駄もなく、その動きは武道家を連想させる。
理数系のオトコにも弱い(vol22も見てね!)が、山方面が得意なオトコにもめっぽう弱い私は、かなりクラッときた。
「なるべく、山に付加をかけないように歩いているんです」。
工藤さんは、この村の砂子瀬で生まれ、十五才の時からマタギのシカリ(統率者)だった父親の故・作太郎氏らと山を歩いてきた。
(その2へ続く)