vol.23
「ブナの実一升、金一升」
その2

工藤さんによると、白神山地の周辺には千年以上も前から多くのマタギ達が住み、山の掟に従い、独特の狩猟方法を守りながら暮らしてきたという。たとえば、皮をはいだ熊を解体する前に、呪文を唱えて魂を鎮める「サカサガワ(逆さ皮)」の儀式。十二人で山に入ることを忌み嫌う習慣から、どうしても十二人にならざるを得ないときには「サンスケ」と呼ばれる、木やワラでつくった人形を持って行くこと。 こうした様々な作法には、人の英知の及ばない大自然への畏敬の念が込められているように思う。 また、山の生き物を根絶やしにしないための心配りも徹底している。川を汚さぬよう、米のとぎ汁でさえ川に流さない。キノコは木を傷つけないよう、ナタでそっと切り取る。山菜も根は必ず残し、翌年新しい芽が出てくるようにするのだという。 白神の山で生計をたててきた人達はよく「ブナの実一升、金一升」という言葉を口にする。一升の実を育てるブナ林が、金一升にも値する豊かな恵みをもたらしてくれる存在であり、自然を汚すことは、すなわち自分達の首を絞めることになると戒めてきたのだ。 「山の恵みは、山神様からの授かりもの。だから、私らマタギは、自分たちが生きていくのに必要な分だけ、感謝していただくんです」と工藤さん。マタギの文化には、私達が自然から学び共生していく知恵がいっぱい詰まっているのかも知れない。
(終)


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