vol.2
「ねぶたの涙」
その1
ねぶたが終わると、青森は急に秋の気配が漂い始める。ついこの間まで、夏の光を浴びてキラキラ輝いていたパラソルも、サンダルも、庭の朝顔さえも、どことなくくすんで見える。
祭りの後独特の寂しさだが、私にはこの季節になるとよみがえる、忘れられない思い出がある。二十一歳の時、父がガンの末期症状とわかり、一度実家に帰っていた時期があった。父との死別、そして、仕事をやめて帰らなければならなくなった私を励ますつもりだったのだろう、学生時代の仲間と、知り合いの編集者たちが八人で、ねぶたを跳ねに来ることになった。
学生時代、一緒にミニコミ誌を作っていた彼女たちは、ノリの良さでは右に出る者がいない。編集者の男性群も、それに輪をかけて、ノリがいい。「ラッセラー、ラッセラー」のステップも軽やかに、なかなか筋がよろしい。四日間の滞在中に、津軽弁もかなりマスターしたらしく、「はいっと、けら(あげる)」と、観光客に鈴を手渡したりしている。
昼間は海で泳ぎ、夜は跳ね人になり、家に帰ってからは夜明けまで飲んだ。明日、東京へ帰るという最後の晩は、ねぶたの最終日だった。私たちはひたすら跳ねた。誰かが口火を切れば、私が泣いてしまうのではないか、あるいは、明日汽車に乗って自分も一緒に行くと言い出すのではないかと、みんなが気遣ってくれているのが痛いほどわかる。
(その2へ続く)