vol.5
「お月さん、まんまる(下編)」
その1

これまでも、噂には聞いていた「玉川温泉」だが、実際に訪ねるのは今回が初めてだ。 長い坂道を下っていくと、公衆トイレがあり、ここで道が直進方向と左折方向に分かれている。ほとんどの人たちは左側に曲がって行くので、私たちも後に続いて進む。 すると、いきなり、道の脇からゴボゴボというものすごい音が聞こえてきた。おそるおそる下を見ると、畳二畳ほどの窪地から、煮えたぎったお湯が湧いているではないか。 「大噴(おおぶけ)」と呼ばれる源泉で、摂氏九十八度の湯が、毎分九千リットルも湧出されるという。普通の温泉は、毎分数リットル〜数十リットルであるのに対し、ここでは、ドラム缶四十五本分だ。湧出量においては、おそらく日本一だろう。大人の頭ほどの巨大な泡が、次々に現れては消えていく。見たことはないが、地獄の釜湯はこんな光景なのだろうか。足元の岩の間からは、黄色いガスがシューッと吹き出し、強い硫黄の匂いでむせかえりそうだ。あちこちにロープが張り巡らされ、「危険!この先立ち入り禁止」の看板が見える。 ところが驚いたことに、この源泉に寄り集まるように、何十人もの人々が岩の上に寝ているではないか。洋服を着たまま、仰向けにゴザの上に寝そべり、体には毛布を掛けている。私は最初、ガス中毒を起こした人たちが倒れているのかと思ったほどだ。 だが、近くにあった案内板を読んで納得した。ここでは、台湾、チリと並んで世界三か所にしかない、「北投石」という石が産出されるのだとか。そして、この石はラジウム放射能を含有し、この光を浴びた人の一部でガンが治ったという噂が広まり、海外からもお客が後を絶たないのだという。この辺りは、いわゆる湯船につかる「温泉浴」ではなく、放射能を浴びながら岩に寝そべる岩盤温熱療法「岩盤浴」の場所らしい。浴場は、冒頭の公衆トイレの所の道を直進した先にあるという。
(その2へ続く)


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