vol.6
「お月さん、まんまる(下編)」
その2

泉質は、硫化水素含有塩酸性ばん泉。世界でもあまり例のない塩酸を主成分とした温泉だ。そのため、肌にピリピリチカチカと刺激があるのだそうだ。「だそうだ」と書いたのは、私たちが温泉に入らなかったから。雰囲気に圧倒されたこともあるが、物見遊山で気軽に入るには、あまりに不謹慎な気がしてきたのだ。 術後の療養のため、静岡から何度も訪れているという老夫婦からお話しを伺った。毎年、一月の受付開始日には、当日だけで千件の宿泊予約があり、なかなか宿がとれないため、近隣のホテルに宿をとり、通ってきているのだという。 「夜明けと同時に、ゴザを担いだ人々が長い列をつくってこの地を目指すんです。それはそれは、何とも言えない光景ですよ」と、奥さん。なかには、現代医学では手だてのない難病を患った方も多い。玉川温泉は、そうした人たちの聖地でもあり、心と体の拠り所でもあるのだろう。 「あなた方も、お体大切にね。そして、後悔しないように生きてね」そう言って奥さんは、合掌し深々と頭を下げられた。祈るようなその仕草に、ふと、ゆうべの十五夜の月が重なった。「このご夫婦も私たちも、来年も再来年も、十五夜お月さんが見られますように・・・」。胸が締めつけられるような、せつない思いにかられながら、温泉を後にした。 PS 後日、資料を集めてみたら、玉川温泉関連の研究で、東大、東北大、弘前大などから十数名の医学博士が誕生している。つまり、逆をかえせば、現在においても未だ解明されないことがたくさんあるということだ。玉川温泉に限らず、温泉は入浴方法を間違えればとっても危険。そんなわけで、初めての方は、くれぐれもご自分の体に合うかどうか様子を見ながら、入浴して下さいね。
(終)


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