vol.11
「戦士の休息」
その1

今年も新しい年が始まり、街は元日からおおぜいの買い物客で賑わっている。昔は、お正月に営業する店などどこにもなく、せめて3が日くらいはと、商店も休んだものだ。 東京に住んでいた学生の頃、年末に食料を買いだめするのを忘れたために、正月3日間、ご飯とシーチキンの缶詰1個で生き延びた伝説の男・Dもいたっけ。「人も車もいないトーキョーは、空気が澄んでてサ、アパートの窓から星まで見えてやんの。あん時は、やたら空しかったよなあ」。そうなのだ。店という店はみんな休み、ましてやコンビニもピザ屋の出前も珍しかった時代、東京で迎える1人暮らしのお正月は、食べ物のストックは必須事項だった。 新年の開店のため、スーパーの店員さんが朝シャッターを開けようとしたら、Dが店先に亡霊のように立ちすくんでいて、自らシャッターをこじ開け、狂ったように買い物をしまくったと言う。たまたま、店の近くに住む友人が目撃したのだ。後に、Dがシーチキン缶と言っていたのは嘘で、実は隣の家の犬から奪い取ったドッグフード缶だという噂が飛び交ったが、真偽のほどは誰も知らない。 話がすっかりそれたが、とにかく少し前までの正月とずいぶん趣が違ってきているのは確かだ。大型店が営業すれば、それに伴って卸し会社、輸送業者、その他諸々の業種の人たちにも関連してくる。朝寝、朝酒、朝湯どころか、家族でおせちを食べたり、テレビを観ながら一家団らんというささやかな過ごし方さえ夢のまた夢になりつつある。
(その2へ続く)


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