vol.14
「あんなオシゴト、こんなオシゴト(後編)」
その2

「もしも、プロレス記者になれなかったら、将来は地元に帰って実家の花屋を継ぐ」というクラスの男友達がバイトしていたのは、駅前の小さな花屋さんだった。「『お届け物で〜す』って、オレが花束を渡すだろ。すると、受け取った人の顔がパーッと変わるんだ。あの一瞬は、花屋冥利につきるな」と、彼。 そんなある日、いつものように花の配達に出かけた。カードには、「ハッピーバースデー」のメッセージ。どうやら、彼から彼女への誕生日プレゼントのようだ。ところが、配達先の家に着いてみるとどこか様子がおかしい。家の中から出てきた中年の女性が花束に気づき、玄関先でワーッと泣き崩れてしまった。聞けば、花束と共に誕生日を祝ってもらうはずだった娘さんは、今朝突然死したという。彼女好みの花でまとめられた花束が、遺族の悲しみをさらに深いものにしてしまった。 「畜生・・・。迂闊だった。もう少し、早く感づいてれば、送り主に返すなり、いくらでも方法はあったのに。オレが鈍くさいために、お袋さんを2重に悲しませてしまった・・・」。その晩、彼は行きつけの安居酒屋で、焼酎をしこたま飲んで酔いつぶれた。私たちは、5人がかりで彼をアパートまでかついで帰った。 あの頃。社会に出るまでの短い期間、私たちはバイトを通して、いろんなものを吸収させてもらった。私の経験したバイトも、10種類は下らないだろう。そんな世界で見聞きした体験は、私が現在の仕事をするうえで、時たま思わぬ力になってくれている。
(終)


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