vol.18
スローな暮らし(前編)
その1

先日読んだ雑誌で、ターシャ・テューダーという女性の暮らしが紹介されていた。ご存知の方も多いと思うが、彼女は、ニューイングランド地方の大自然のなかで、19世紀の古き良きアメリカの田舎暮らしを営んでいる。家具職人の息子が手がけた古い農家を模した家で、山羊や犬、猫と暮らし、衣食住のすべてにわたって手作りを実践し、絵本作家としての活動を続けているのだ。 花があふれる庭、しぼりたての山羊の乳や、それを使ったクリーム、手作りの洋服や生活雑貨、そうした暮らしのなかから紡ぎ出される絵本。毎日をていねいに、慈しみながら生きる彼女のスタイルは、世界中の人々を魅了しているのだという。 少し前の日本でも、手作りという行為は当たり前だった。お母さん手編みのセーターや手袋は、役目を終えれば1本の毛糸に戻り、何度も誰かのセーターやマフラーとして再生された。庭の梅で作る梅干しや梅酒、自家製の漬け物の数々。暮らしのあちこちに手作りの物があり、衣食住すべてに作った人の顔が見えるような毎日だった。 最近、よく耳にする「スローライフ」は、単にゆっくりというだけではなく、「ていねいな暮らし」、「充実した時間の過ごし方」など、時間に追われる現代人へのあらゆる提言が込められている。そうした意味で、ターシャ・テューダーは、スローライフの先駆者的存在といえる。 便利な家電や、通信システムに慣れた私たちの生活を一変するのは無理でも、何かを創造したり、自分で育てた野菜を収穫したりと、できるだけ自然とふれあう機会を増やす方向を目指したい。ここ数年、私のなかでもそんな欲求が日増しに強くなっている。 そこで思い切って、近所の市民農園を借りて野菜づくりを手がけることにした。これまでも、自宅の庭で畳2畳ほどの畑をつくっていたが、やはり規模が小さすぎる。気分は、ニューイングランド、畳サイズでは、あまりにせこすぎるというものだろう。
(その2へ続く)


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