vol.18
スローな暮らし(前編)
その2

5月1日。農園オープンの日、現地に行った私は、クラ〜ッと軽い立ちくらみがした。1区画あたり120平方メートルという広さ。今までの畳畑からは格段の昇格だ。 慣れないクワで、ひたすら耕す。夫ケンヂ氏は、慎重さと几帳面さを人生のスローガンに掲げているオトコだ。「石橋を叩いて渡る」ということわざがあるが、彼の場合、叩くという行為だけでは安心できず、橋の構造体、及び石の劣化度と耐久年数、その他諸々の条件を総合的に調査・検討してからではないと、決して渡らないだろう。 それに対し私は、イノシシでさえ思わずのけぞって道を譲るほどの猪突猛進型。思いこみの激しさと鼻息の荒さは天下一品だ。短い足に回転をかけ、超高速で駆け抜けるため、橋の方も、自分の上を通過されたことに気づかないのではないかと思われる。 当然のことながら、毛色の違う2人が共同作業をすると、あっちこっちでズレが生じる。最初に、区画を測量しひもを張って畝を作り始めたのにもかかわらず、出来上がった畝は微妙に蛇行していた。私は、それもご愛嬌だと思うのだが、彼はいたく気にしている様子。そんな彼に構わず、ひたすらクワをふるう。腰も痛いし、背中も張る。北海道開拓者たちの苦労の日々に想像を巡らしながら、2人で黙々と作業する間に、なんとか7本の畝が完成した。その上から黒いビニールでマルチングすると、我ながら惚れ惚れするような光景だ。 即、苗の植え込みに取りかかりたいところだが、堆肥を入れた後は、何日か間をおかなくてはいけないという。ああ、じれったい。スローライフを実践するためには、まず自分の性格をスローにする必要がある。スローってやつは、私にとって意外に疲れるものらしい。                
後編へ続く


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