vol.19
スローな暮らし(後編)
その1
でこぼこ夫婦の共同作業ながら、植え付け前の下準備はナントカ整った。畝には、肥料とふかふかの堆肥もたっぷりすきこんである。
数日後、そこに枝豆、トウモロコシ、サヤエンドウ、里芋を植え付けた。1本の畝の長さが13メートル、これが7本分なので、半日があっという間に過ぎていく。
翌日は娘も動員して、ジャガイモの植え付け作業だ。数ヶ月後の収穫シーンを想像すると顔がひとりでにニンマリし、娘に気味悪がられた。
週末ファーマーになってからというもの、いくつかの小さな変化があった。まず、天候に敏感になった。風の強い日、遅霜の注意報が出た日には、苗が倒れたり凍ったりしないかと気が気ではない。雲行きが怪しくなると空を仰ぎ、岩木山にかかる雲の様子を眺めたりする。
天候だけではなく、生き物への関心も同様だ。土を掘り返すとアリやミミズ、ダンゴムシ、実にさまざまな虫の存在に気づかされる。土の上で、私が泣いたり笑ったり、くだらないことに腹をたてている間にも、ここでは世界が勝手に回っているのだ。自分が今まで見ていたのは、ほんのわずかのごく限られた一部の世界だったことをあらためて認識させられる。
視覚以外にも、その日の空気のなかに感じる湿度や乾き、カッコウの初鳴き、農園脇のあぜ道から漂うヨモギの香りなど、いろんな感覚が総動員される。これまで休眠中だった五感にパチンとスイッチが入って、フル稼働し始めた感じである。農業が生活の中心だった昔の人たちは、きっとそんなふうに自然と寄り添って暮らしてきたんだろうな。
(その2へ続く)