vol.22
七夕の夜に・・・。
その1

今日は七夕。庭に出て空を見上げると、丸いウエハースの食べ残しのような月が出ている。 ひこぼしとおりひめは、今頃、年に1度の逢瀬を楽しんでいるのかなと思いをめぐらせながら、ぐるりと空を見渡してみる。 思えば、大好きな人と年に1度しか会えなくて、その間、相手の声を聞くことも顔を見ることもできない恋愛は、かなりこたえるだろうな。会えない時間のもどかしさ、不安な気持ちから生じる葛藤、やきもち、そして自己嫌悪・・・。こんな感情の堂々巡りと、気持ちのすれ違いから、ちょっと前までは、「遠距離恋愛は成就しない」と言われていたが、最近は様子が違うようだ。 カメラ付きの携帯電話やメールというツールのおかげで、リアルタイムに情報交換ができる分、時間や距離がぐんと縮まった。しかし、今でこそ小・中学生が個人の携帯電話を持っているのも珍しくないが、一昔前の時代は、お互いのタイミングが一瞬ずれたために、ゴールインできなかったケースも少なくない。 ある女性誌で「結婚」というテーマで取材したA子さんのケース。いつまでたってもプロポーズしてくれない彼に業を煮やして、A子さんは田舎でお見合いすると嘘をついた。田舎に帰省する日、東京駅の新幹線のホームで、A子さんは彼が連れ戻しに来てくれることを期待して待ち続けた。だが、結局彼は現れなかった。 一方、彼女と同郷だった彼は、先回りして彼女の心をつなぎ止めようと計画した。だが、田舎の彼女の実家を訪ねてみたものの、いっこうに彼女は帰ってこない。これはおかしいと、いそいで東京に戻ったが、すでにアパートは引き払われ、職場も変わった後だった。 1年後、共通の友人の結婚式で2人は再開するものの、A子さんにはすでに婚約者がいた。皮肉なことに、相手は、1年前プラットホームで泣き崩れ、うずくまっていたA子さんに「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたJRの職員だったという。 もし、携帯電話やメールというコミュニケーションの手段があれば、別な展開があっただろうし、少なくとも誤解はとけたはずだ。不便さゆえに、恋愛がスリリングでドラマティックだった時代。当時を振り返ると、心の奥に、伝えそびれた言葉の断片がひらひら浮かんで、せつない思いがこみ上げてくる。
(その2へ続く)


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