vol.32
毛のおつゆ
その1
「今日、給食に“毛のおつゆ”が出たよ」。当時、幼稚園に通っていた娘が、のたもうた。
「えっ?毛???」と、 聞くと「うん。なんか知らないけど、毛が入ってるんだって」とすましている。
う〜むむむ。毛が入っているとは、いったいどんな料理じゃ!
幼稚園児が“毛”を連想する食材といえば、形状からいって“もずく”か、はたまた毛におおわれたカニだろうか。それとも、ブームとなっている無国籍料理の類だろうか。
急いで給食の献立表を見ると、“毛のおつゆ”の正体は、「けの汁」であった。
数日後、参観日に出かけると、廊下に子どもたちの図画が展示してある。娘の作品には、「きょうわたしは、はじめて、けのおつゆをたべました」という本人のコメントが添えられており、顔から火が出る思いであった。
津軽の代表的な郷土料理でもある、けの汁の名誉(?)のために断っておくが、けの汁の“け”は毛ではなく、かゆのことである。保存しておいたゼンマイ、フキなどの山菜や、ゴボウ、ニンジン、コンニャクなどをごくごく細かく刻み、味噌仕立てにした料理である。お米が貴重だった時代、食材をお米に見立ててかゆのようにして食べたことからこの名がついたともいわれている。雪に閉ざされる津軽では、冬場の栄養源として大変重宝な食べ物であった。
特に、昔から1月16日の小正月だけは、女たちも家事から開放されるとあって、家族みんなでけの汁を食べて1年の無病息災を願ったのだという。
こうした津軽の食文化を、次の世代につなげていこうと活動しているグループがあるというので、先日取材に行ってきた。
(その2へ続く)