vol.32
毛のおつゆ
その2
「あかつきの会」は、今から4年前、弘前市石川地区の農家のお母さんたち20人ほどが集まってできた会だ。早朝、「道の駅ひろさき(サンフェスタいしかわ)」に農産物をおさめに行くと、観光客が車のなかで仮眠したり、ドライブの途中休憩しているのを見かけるようになった。特に花見やねぷたの時期になると、そうした観光客から「このへんで、朝食を食べられる所を探しているのですが」という問い合わせが相次いだという。
「それならば、せっかく来てくださったお客さんに津軽の郷土料理を召し上がっていただきたい」と、みんなで朝4時に集合し料理を作り、朝食を振る舞った。温かいおにぎりに、けの汁、高菜のかす汁、しとぎもち。 全国から訪れる観光客は大変喜び、たちまち評判になったという。
会を立ち上げるにあたり、メンバーたちは地域のお年寄りを一軒ずつ訪ね歩き、昔の暮らしに耳を傾けた。単に料理のレシピにとどまらず、「ハレ」の日の特別な料理やしきたり、「ケ」の普段の食卓にまつわる言い伝えから食材を保存するための知恵、さらにはこの地の文化・風習にいたるまで、丹念に 調べてまわったという。
「お話を聞くうち、私たちの世代でも知らないことがいっぱいあることに気付いたの。だから、なんとかして次の世代につなげて行かなくては・・・という想いが強くなりました」と、メンバーの工藤良子さんは話す。
取材におじゃました日は、そうした料理を食べながら、みんなで料理にまつわるお話を楽しむという「津軽伝統料理の集い」が開催された。
献立は、黒大豆の豆ご飯、タラと山菜の煮付け、きゅうりなます、ナンバ漬け、青菜とクルミの白和えなど9品の料理に漬け物、マルメロのシロップ煮など。蔵から探してきたという足つきのお膳と昔ながらの器が料理と良く合う。
現代向けにどれもあえて薄味に仕上げたというが、ダシをしっかりとっているので、素材そのものの味が引き立って、しみじみとおいしい。いつもは時間に追われ、早食いに慣れている私だが、こういう献立はひと口ずつゆっくり噛みしめながら味わいたくなってくる。
インタビューしながら会場をまわると、「この料理は、何十年ぶりに食べたけど舌は憶えているもんですね」とか、「死んだおばあちゃんが、よく作ってくれて・・・」とか、みなしみじみとした表情だ。どんなに食の流行やブームが起ころうと、津軽人のDNAにインプットされた記憶は強烈なのだ。この日、みんながしみじみと噛みしめたのは、料理の味だけではなく、それぞれの食にまつわる懐かしい光景や大切な人々だったのかも知れない。
“毛”の汁を食べた我が娘も、もはや私の身長を追い越しそうだ。このお正月は、2人で
正真正銘の、けの汁を作ってみたいものだ。
(終)