vol.35
あふれた水がめ
その1
第2子出産後、ふとした出来事がきっかけで、ノイローゼ状態に陥ってしまった知り合いがいる。赤ちゃんの1ヶ月検診で、医師が発した何気ない一言が始まりだった。
彼女は、その日以来激しく悩み苦しみ、母乳も出なくなり、不安のあまり精神のバランスを崩してしまった。
きっと、その医師も悪気があって言ったわけではないだろうが、受け止める側にしてみては、天地がひっくり返るほどの衝撃だったのだろう。
別の医師にも診てもらい、助産婦さんにも相談に出かけ「赤ちゃんのこの症状は、心配要りませんよ」という言葉にその時は安心するものの、しばらくすると、例の医師の言葉が頭をよぎり不安でたまらなくなるというのだ。
『こんなにも、柔らかな舌が人を斬る』。
これは、数年前、私が車を運転していた時に、偶然ラジオで聴いた川柳である。詠んだ方の名前も知らないが、胸に深く染み、未だに忘れることの出来ない句である。
たったひとことの言葉が、ばっさり人を斬り、場合によっては相手を再起不能なまでに追い込んでしまう。
心がすっかりまいってしまった彼女のもとへ、私はここしばらく毎日通っている。
時間の許す限り、ひたすら彼女の話を聴く。時にはぽろぽろ泣き、とりとめもなく話す彼女の話に、心から耳を傾ける。
話を聴くうち、彼女がこれまでいかに勤勉に自分の役割をこなそうと努力し、まわりの人にも気を配り、自分の力の120%を出し切って頑張り続けてきたかが伝わってきた。
(その2へ続く)